胎内記憶

お母さんがまだよっていうから待っていたんだよ。

4歳の女の子のママから、聞いたお話です。

ある日、保育園に迎えに行くと保育園のお部屋の中の一角に、ピンク色のカーテンが天井からつるされていました。柔らかなカーテンで包まれたその空間は、まるで小さなお部屋のようです。
お母さんはふとあることを思い出しました。
ピンク色のカーテンは子宮の中の様子を再現したものと、聞いたことがあったのです。

「ママのお腹の中はピンク色なんだよ」

すると、女の子は
「ちがうよ。ピンクなんかじゃない。赤だよ。暗い赤なんだよ。
早くママに会いたくて、早く出てこようと思ったのにママがまだよっていうから。
まだよっていうから、待っていたのに。
寝ていたら急に足をひっぱられて、出てきたら寒くてまぶしかったんだよ」

突然のお話に、お母さんは驚いて聞いていました。どう返事をしていいのか分からないでいると、
「あのね。」と少し怒った表情で、怒った声で、同じお話を繰り返して話してくれたそうです。

お母さんには、思い当たる事があります。
女の子がまだお腹の中にいた頃、早産の危険があって入院していました。
カレンダーに予定日と妊娠週数を記入し、毎日毎日お腹の赤ちゃんに向けてお願いしていたそうです。

「まだよ。まだお腹の中にいてね。」

予定日へ向かう一日一日が長く感じたことでしょう。
ベッドに寝ているだけの一日。
何もしていないと思う一日。
赤ちゃんにとっては命をつなぐための、特別な一日。
何にも代えられないほどの大切な一日。
お腹の赤ちゃんのために、今、お母さんが出来る事の全てをやり尽くしたら。
赤ちゃんの無事を願う気持ちと祈る気持ちでお母さんの心はいっぱいになりました。

「まだよ。」
「まだよ。」
ある日の健診で、赤ちゃんが弱っていることが分かりました。
そして、赤ちゃんを助けるため緊急の帝王切開の手術が行われ、予定日より二ヶ月以上も早く生まれたのです。
お母さんは、お腹の中で充分に育ててあげられなかった後悔と、詫びる気持ちや自分を責める気持ちをずっと持ち続けていました。育児の様々な場面で、それは繰り返し思い出されました。

その時の事を、覚えていたのかもしれない。
弱っていて危険だったのに、本人は「寝ていた」なんて言っている。
心配したのに、「起こされた」なんて怒っている。
お母さんは、お話を聞きながら気づきました。

「早くおママに会いたかったんだよ」の言葉の意味です。

私が、ママでもいいの?
私が、ママでいいんだね。
早く会いたいと思ってくれたんだものね。

その時、お母さんの気持ちが動きました。
詫びる気持ちが、感謝になりました。(早く会いたい気持ちでいてくれたんだね)
自分を責める気持ちの中に、喜びが入るようになりました。(早く会えたね)
「私が、ママでいいんだ。」

お母さんは、「子供が一番です」と周囲に言うほど本当に大切に子育てをしています。
女の子は小さく生まれたことを感じさせないほど、元気でよくお話をしてくれます。

お話の中にある、意味を受け取ることが出来ました。
それは不思議な話で終わらせてしまうかも知れないほど何気ない一言かも知れません。
しかし、その中にはこれからの子育てを大きく変えていくほどのメッセージが含まれているように感じました。

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